1 染め抜き紋と石持ち紋の違い


旅から旅です。
着物には、以前はこうだったけれど、今は合理性の名のもとに行なわれなくなったものがあります。
全くなくなったわけではないのですが、それを行なう職人が、随分減ってしまいました。その実例と、それに関する問題を出しましょう。
皆さん、一度,考えてください。

 ここに、黒地の五つ紋の着物、つまり、喪服の着物が二枚あるとします。
一枚は白生地から黒に染めて紋を入れた喪服です。
もう一枚は染め上がり品で石持紋に紋を入れた喪服です。
以前は、喪服の着物と言えば前者の誂えの喪服でした。
しかし、染め出してから仕立てあがるのに,当然、何ヶ月もかかる為か、出来合いの喪服が主流となってしまいました。

 では、ここからが問題です。誂えの喪服の出来あがるまでの工程を、書き記してください。そして、もうひとつの宿題は石持紋の何年か先に起こり得る困ったことについて述べなさい。
またその困った事の原因を述べなさい。

これが答えです。
 誂えの喪服の場合、まず白生地の巾を一定にするために湯熨(ゆのし)をします。
そして、誂え主の寸法に合わせて、墨打ち(すみうち)をします。
この作業には糸を使います。なぜなら、なにしろ黒に染めるもので、墨打ちの墨が目立たなくなるためです。
その後、紋糊屋さんに、白生地は行きます。

紋糊というのは正式には紋章糊置(もんしょうのりおき)という工程です。
この工程は、紋糊職人の仕事場というぺーじをごらんになってください。
具体的には、肩の明きの印を起点にして、紋を入れる紋場だけにゴム糊で、生地に染料が入らないように防染(ぼうせん)をします。
これは、背紋の場合で胸、袖も同じ様に紋糊をします。
五つ紋の場合は紋糊は全部で六つします。
背の紋は二つの紋を合わせてひとつの紋になるからです。
次に,黒染屋さんに行きます。誂え主の希望に沿ってどういう黒染めにするかが決まります。
黒染めが上がったら、次はまた,湯熨をします。
そして、紋洗いをします。これは、紋糊のゴムを外して、紋場を
度、三品改良液(さんぴんかいりょうえき)という抜染剤(ばっせんざい)で、きれいにします。
それから、紋上絵をします。
紋を入れるというのは、小規模な手描友禅(てがきゆうぜん)だと、思ってください。
手馴れた職人さんが、筆で紋を描きます。やはり、六つの紋を描きます。
そして、また、最後の上げ熨(あげのし)というゆのしをします。
やっと、喪服の完成です。さぁ、仕立て職人の出番です。

 では、次に石持紋の場合を述べます。石持というのは、ご存知のように、染め上がりのときから白い丸が空いています。ここに、希望の紋を入れるわけです。
そして、同じ様に紋上絵をします。そのとき、誂え紋と石持紋とに大きな差が生じます。
誂え紋のほうは紋場(紋の形)だけが白に抜けており、そこに紋を描くのだけれど石持紋のほうは白丸に紋を描きます。
すると当然、描いた後に白い余白が残ります。
その余白に紋上絵の職人さんは黒の染料で余白を塗りつぶします(俗に色を嵌めるといっています)。
でも、最近は黒染めもいろいろな染料が使われています。
たとえば、本草木泥染めなどと、いかにも高級感あふれる染料の名前もあるでしょう?その紋の外は草木染め(?)の黒だけれど
白い丸の中に嵌める黒は普通の黒なのですよ。
そうすると、近い将来にどう言うことが起こるかというと石持で入れた紋の縁まわりと、そのほかの部分と黒の色が違ってくるのです。

つまり、黒の染料の変色のスピードが違うために起こるのです。
見た目には、紋の縁の黒色が白っぽく見えることでしょう。
そのときにできることは、再び、紋洗いして、紋上絵を施さなければなりません。
以上が、前回の解答です。 (旅)

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