旅から旅です。
今日は防汚・撥水加工のお話しをします。
今、着物を着る人のなかにPT加工やSG加工、はたまた○○○ガード加工とかを知らない人はおられないのではないでしょうか?
では、これらの撥水防汚加工はどのような加工でしょうか?もっともPT加工のほうは技術を公開されてないので分かりません。
そこで、ガード加工のほうを説明します。まず、フッ素樹脂溶液のなかに反物をくぐらせます。そして、自然乾燥のあと、フッ素樹脂
を定着させるために加熱処理されます。
では、これらの長所と短所を述べます。
長所としては、もちろん、水をはじくことです。雨が降っているときに晴れ着を着ることなど防汚加工の出来る前には考えられないことでした。防汚加工をせずに雨に降られた着物はどうなるでしょうか?
まず、水による輪ジミができます。この輪ジミは一度乾燥してしまうと、生地によっては(糊気のある生地)結構、ガンコなシミになります。そして雨を吸い込むことによって、将来のカビ発生の原因にもなることでしょう。また、雨を浴びることによって前項で述べたように縮みの原因にもなることでしょう。シミの危険は雨だけではなく、いろんなシチュエーションで襲いかかってきます。
「あっ!」と思ったときには、もうすでに着物は汚れています。
だから、ガード加工をしていて、心から「良かったぁ!!」と思ったことは何度もあることでしょうね?
では、次の短所と言うか、限界点を述べます。
まず、焼肉を食べにいくとします。ジュージューと肉の脂がはねています。このアツアツの肉汁が、着物についたら、どうなると思いますか?見事にスッコーンと繊維に入り込みます。
同様に、熱いコーヒー、汁物もまた、繊維に入りこみます。
また、雨降りには草履でハネをあげるでしょ?ああいう速度のあるシミもやはり、繊維に入り込みます。
また、最近は染め替えというものは、あまり行なわれないから良いようなものかもしれませんが、PT加工の場合は、無地の染め替えはできません。色抜きができてしまうので、染められるかと思われるでしょうが、染められません。これは、熱を加えると生地に薬品が浸透するから、色が抜けるのです。染め替えができるが如く、言う方もおられますが、できません。ガード加工のほうは、浸染(しんせん)なら、できます。苦労はされてはいますが。(無地染め屋の職人さんが)
そして、縮み予防になるかということを聞かれますが、予防にはなりません。なぜなら、かたまりとしての大量の水ははじくけれ
ど、蒸気となった湿気は吸い込みます。それが縮みの原因となります。
シワ防止になるか?かえって、生地の復元力を阻害するからシワが伸びにくくなります。
生地の風合いは変わるか?変わります。確かにツルンと滑りやすくなるような気がします。なにやら、ヌルヌルと蝋燭やワックスを塗り付けたかのような手触りになります。摩擦係数が低くなるので、着ていると胸元がはだけてくるとおっしゃる方もいます。
色は変わるか?変わります。
深色加工(しんしょくかこう)というのを、みなさんはご存知ですか?わかりやすいところで言うと、既製品の喪服には大概、施されています。どういう効果があるかというと、分かりやすく言うと、お葬式のときに喪服を着た人達が横並びするとしますね。すると、昔に作った年配のかたの喪服の黒と今出来の若い人の黒と微妙に黒が違ったという経験はありませんか?年配の方の黒は白っぽくて、若い人の黒は「烏の濡れ羽色(からすのぬれはいろ)」みたいな深い黒に見えます。これが、深色加工です。実際にはシリコン樹脂溶液に反物をくぐらせます。どうして烏の濡れ羽色になるかというと、目の錯覚というか、色というのは光の反射量が少なければ深い色に見えるのです。そのためのシリコン被膜を生地の表面に塗り付けて光の反射量を減らします。そのことがわかるのは、出来合いの喪服の反物をさわってご覧なさい。なにか、ぬめぬめと、まるで蝋燭の粉をさわっているように思うことでしょう。そして、確かに手にもそのぬめぬめした粉体が移ってきます。この深色加工と同じことがガード加工をすれば起こります。だから、自分が気に入った色だったのに、深い、つまり濃い色になって戻って来ることもあるでしょう。
こうして書いていくと、長所よりも短所のほうが多いように思われたことでしょうね。
でも、それはひとそれぞれ、各人が判断されればいいことです。
さて、かく言う私も、これまでずっとガード加工推進派のひとりでした。
上記の短所を補うに余りあるほどの長所が魅力でした。
しかし、ある時期から考えが180度変わりました。
結論から述べますと、フロンガス撤廃法案が可決されてから、今まで使っていたフッ素樹脂が使えなくなったらしいのです。つまり、今まではフッ素樹脂溶液の原液を水で薄めて使っていたらしいのですが、その原液が変質していたのです。だから、今までと同じ濃度の溶液に反物をくぐらせても撥水効果が見込めないということになってしまったのです。そこで、加工をするところは、ほとんど全てが濃度を濃くして撥水効果の品質を維持したのです。ところが、ここに落とし穴がありました。
溶液が濃くなったせいだと思うのですが、加工済みの反物の難繰りをしていると、目が痛くなったり、喉がいがらっぽくなったり、果ては、頭が痛くなってきたのです。そして、手触りが妙にぬめぬめとしてきます。どうやら、余分なフッ素樹脂が過度に生地表面に乗っているため、それらが空中に浮かび漂い私の目や喉を刺激するのだろうと思いました。
この症状は仕立てをするものも訴えます。私は考えました。この症状は、最終的にお客様も感じないはずがない、ただ、もしそういう症状があっても、「まさかそんな?」と思って、やり過ごしてしまうのではないか?と。たとえば、お客様が、ある着物を着ている時に限って、体調が悪くなるとかあっても、ついつい気のせいだと思って見過ごされることもあるかもしれない。だからと言って、そのままホッカムリをするわけにいかない、ましてや、仕立て職人の健康を守る責任も私にはあるわけです。そこで、もしかすると、この症状はガード加工だけの問題かもしれないと考え、PT加工を仕立てあがりの袷に施すことにしました。1週間後に上がりました。祈るような気持ちで、その着物の検品をしました。でも、がっかりしました。やっぱり、喉が痛いのです。目が痛いのです。そのときから、私はお客様にガード加工を勧めるのをやめました。でも、もしかすると、この症状を訴えるのは私と仕立て職人だけかもしれません。もしかすると、私は化学物質過敏症なのかもしれません。それに、私は、杉花粉症も持っていますから。でも、もう二度と防汚加工の反物はさわりたくないというのが、正直な気持ちです。でも、私のところでやらなくても、よそでSG加工をされた総絞りの着物が来ました。もう、臭いからすごいのです。日頃、反物を触り慣れておられないひとには、絹物本来のやさしい香りをご存知ないから、この強烈な化学的な異臭に気がつかないのかな?それとも、臭いを感じているのは私だけなのか?
一度、みなさんにお聞きしたいのですが、どうでしょうか?
たとう紙を広げた瞬間、不快な臭いはしませんか?PT加工やガ
ード加工をした反物の残り裂にアイロンをかけて、生地をパタパタさせるか、その生地に顔を近づけていって、においをかいでみていただけませんか?そして、その結果を私に教えてください。そのにおいと手触りを教えてください。でも、もしかすると落ちるべきものは、もう落ちたあとかもしれないしなぁ。
では、またね。(旅)
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