16 謎の染色作家(1)


旅から旅です。
今日は、落款のおはなしをしましょう。たとえば、あなたのお気に入りの着物が二枚あるとしましょう。一枚は鮮やかな加賀五彩で彩られた手描きの訪問着、もう一枚は京刺繍や本金泥加工の散りばめられた豪華絢爛この上もない訪問着。
さて、今日は爽やかな日だから、着物に風を当てて、虫干しをしようと、あなたは思い立ちました。
そして、いままでは、この二枚の着物が、ただ単に「作家もんの上等」という認識だけを持っていたあなたでしたが、今日はしげしげと下前の衽の落款を見ました。
そして、加賀友禅の着物には、なんとなく「加泉」と読める染め落款がありました。そして、豪華な着物には、「露雲」と朱肉色の落款がありました。
「どんな有名な作家先生なのかなぁ?そうだ、呉服屋さんに聞いて見よう。」
あなたは、早速、呉服屋さんに電話しました。

あなた「以前に買った着物の落款のことで、聞きたいのだけど。」
呉服屋「はい、なんという落款でしたか?」
あなた「加泉と露雲という落款なの。一体、どういう作家さんなのかしら?」
呉服屋「加泉というのは、藤村加泉さんという加賀友禅の染色作家です。」
あなた「じゃあ、露雲、つゆくもで、ろうんさんって読むのかしら?」
呉服屋「さぁ、その露雲さんというのは、良く知りませんので、調べてお返事します。」
あなた「それじゃ、ご返事待ちますわ。」でも、ろうんってローンみたいでイヤだわと思いながら、電話を切りました。
一方、あなたの呉服屋さんは京都の問屋に電話しました。
呉服屋「露雲の落款の入った訪問着、覚えていますか?」
問屋 「さぁ?どんなんでした?」
呉服屋「縫いと本金泥の入った豪華な訪問着だよ。」
問屋 「はいはい、思い出しました。その訪問着に露雲って落款がおましたんかぁ?」
呉服屋「そうだよ。その露雲さんの情報を教えてほしいんだが、、、。」
問屋 「さぁ?誰でっしゃろな?よう分かりまへんわ。」
呉服屋「わかりまへん!?(青筋浮かべながら)確かに落款があるんだぞ!!」
問屋 「そしたら、有名な染色作家ということに、しとかはったら、どうですか?」
呉服屋「どうですか?だって?ほんとうに、わからないのか?」
問屋 「京都でも有数の超有名な謎の染色作家、そういうことにしましょ。」
呉服屋「しょうがないな。また、あの手か。まったく、もう。」こういう会話の果てに、また呉服屋さんは、あなたに苦しい電話をします。
呉服屋「もしもし、あの露雲さんのこと、わかりましたよ。」
あなた「えっ、なんていう方なのですか?さぞや、名のある染色作家さんですの?」
呉服屋「はい、京都でも五本の指に入るくらいの超有名な染色作家さんでした。」
あなた「なに露雲さんって言われるのですか?」
呉服屋「それが、謎の染色作家さんで、苗字を誰も知らないほどの謎の先生らしいのです。」(冷や汗をかきながら、早く電話を切りたい呉服屋さん)
あなた「へぇーっ!名前もわからない謎の染色作家さんですか?すごいですね!」(何がスゴイのかわからないけど。)
呉服屋「はい、そうなんですよ。それでは、また、なにかありましたら、、、。」
やっと、電話が切れてほっとしている呉服屋さん。
さて、以上の会話を読まれたみなさんは、どういう感想を持たれたでしょうか?この会話を紐解くには、加賀友禅と京友禅の着物の作り方の違いについて、述べていかなければなりません。
つづく。

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