
これは、本場大島紬に使われる地糸(じいと)です。
車輪梅の煎液で何回も染めては洗い、染めては洗いをし、
石灰を媒染剤に使い、泥田に漬けては、また、
染めるを繰り返すうちに、糸はこなされ、しごかれ、
セリシンが剥がれ落ちていきます。
(参考ページは、大島紬といえば、泥染め)
この糸をさわるとね、「ふわふわ」なのです。
手の平で包みこむように握ると、幸福感にひたれます。
乾いているのに、しっとりしていて、艶がある。
そういう糸造りを大島紬はしているのです。
泥染めというのは、久米島でも行なわれていますが、
媒染に石灰を使うのは、大島紬だけなのです。
よく、大島の糸は結城の手紡ぎ糸と比べられ、
さも、絹糸であることが劣っているかのように評されますが、
まったくそれは間違っているのです。
なるほど、糸として生まれたときは、普通の絹糸であったとしても、
織り機に架けられるまでに、地糸は64回にわたって、
時には優しく、時には荒々しく人の手にかけられて、
柔らかいふわふわの地糸に生まれ変わるのです。
ここまでなめされた大島の糸は、結城の紡ぎ糸よりも
優れているのではないかと僕は思います。
もうすこし、接写してみましょう。
しっとり感がわかりづらかったので、画像処理をしてみました。

糸の表情、見えますか?
人間の手で大事になめされて、
ふわふわになった絹糸なのですよ、これは。
糸には年輪のごとく、何層も泥と石灰と車輪梅が
積み重なっています。
そして、洗い張りをするごとに、ひと皮ずつ、
その年輪がむけていくのです。
年輪がむけることによって、その輝きは増されるのです。
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